#グッスマイラコン 企画の裏側《前篇》
安藝会長 × 企画部 浜子
1.企画の経緯
安藝
この企画が生まれたのは、年が明けてから間もない頃です。
ある和食店での会食中に、偶然隣の個室で弊社の役員とお世話になっているイラストレーターの方々が集まっている場面に出くわし、せっかくの機会なので一緒にお話をすることになりました。その際、話題に上がったのが「フィギュアをもっとイラストレーターの方々と一緒に作ってみたい」というアイディア。
これが今回の企画のきっかけとなりました。
イラストと立体化の関係
安藝
イラストのフィギュア化は、作品の周年記念やイベントで新しい絵が発表され、それを立体化することが定番として多くあります。一方でフィギュアメーカーの僕たちは“はじめからフィギュア用に描かれた絵”を立体化することにも魅力を感じ、実際にその流れでも商品化に取り組んでいます。イラストレーターさんがフィギュア化を前提に描いた絵は、制作において立体化の視点が加わるので、よりその意図に沿った造形アプローチができるのもその理由のひとつです。イラストにもうひとつクリエイティブを重ねたような。そこがとても面白く、フィギュアメーカーとしてチャレンジしがいのある部分だとも思っています。
取り巻く環境の変化
安藝
決して決めつけは良くないですが、以前はイラストレーターの登竜門として、pixivのランキングに登場することで注目を集めるというステップがわかりやすく存在していたように思います。ランキングに載ると一気に注目されるという道。しかしながら今はSNSが多様化していて、「名を上げる場所」が以前ほど明確でなくなっていると感じられます。pixiv上で発表・周知・人気獲得と完結していた当時に比べ、現在は受け手の利用する媒体やイラストレーターの発信場所が多様化し、「ここで結果を出せば確実に注目される」というような状況が減少しているのではないかと。この細分化した競争環境のなか、イラストレーターさんが自分の作品を発表しても以前ほど簡単にわかりやすくは注目されないという…その点についてはその場にいたイラストレーターさん自身も感じているようでした。
一歩先のイラストコンテストを
安藝
こうした状況を受けて、イラストレーターさんにとって注目をわかりやすく集められる場を作るためにどうすればよいかという話になり、「イラストコンテストはどうか」というアイディアが生まれました。もちろん、すでに多くのイラストコンテストが存在していますが、僕たちは「長期間実施可能な枠組み」で「しっかりとした報酬」があること、そして「フィギュア化という具体的なゴール」が用意されているコンテストは少ないのではないかと考えていました。この枠組みをつくることで、イラストレーターの方々にとっては注目されるきっかけに、同時に僕たちにとっては新たな才能を発掘できる可能性の場にもなりうる。最終的にはイラストレーターの方々も、フィギュアメーカーの僕たちも、そしてイラストレーターファン・キャラクターファンのみなさまも楽しんでいただけるような企画になるのではないかと期待し、このアイディアをベースに今回のイラストコンテストを作りました。
2.過去イラコンとの違い
初音ミク10周年記念フィギュア企画をふりかえって
浜子
過去に私たちが企画したイラストコンテストのひとつに「初音ミク10周年記念フィギュア企画 初音ミクイラストコンテスト」があります。このときの募集テーマは「キャラクター『初音ミク』をテーマに、初音ミクを含むイラストを自由にお描きください」というものでした。もちろん大賞に選ばれた方のイラストをフィギュア化することはお伝えしていたのですが、あまり“立体化する”ということにフォーカスはしていなかったんです。“フィギュア化を前提にしたイラストを描いてください”というよりも、“初音ミクの10周年をお祝いするイラストを描いてください”というスタンスだったと記憶しています。審査時も立体物化への意識はそこまで重視していませんでした。今回のイラコンとは趣旨が異なっていますね。フィギュア化ありきだよ、というのがまず前回との違いになると思います。
安藝
改めて前回の大賞をとったこのイラストを見てみると、僕個人の考えでは、「初音ミクと一緒に歩んだ」を表現する手法のひとつとして広がったきっかけを生んだ作品にもなっているのではないかと思っています。初音ミクとの思い出や歩みを細やかなモチーフに取り込んだ「今まで」と、ミクの表情から読み取れる明るい「これから」。16周年のRellaさんが描いたイラストを見たときに、“このイラストと通じるものがある”と勝手に感じていたのを思い出しました。ある種のムーブメントのようなものが僕たちのイラストコンテストから生まれたかもしれないと考えると、そういった場所作りができて嬉しく思いますね。
賞金の設定
安藝
今回のイラストコンテストでは、賞金がしっかりしている点もポイントです。従来のイラストコンテストに負けない金額にできたんじゃないかなと思います。大賞の賞金は200万円。全12回の長期的なコンテストなので、他の賞金を含めると総額は2,400万円です。なぜこの賞金設定にしたのか。例えば、プロにイラストのオファーする時の金額は様々です。巡り合わせが良い時もあれば、お忙しい期間でどうしても高くなってしまう時も。それでも仕事として依頼する以上、一定の金額をお支払いするのが常です。またこのコンテストでもしっかりした金額を提示することで、もしかするとプロのイラストレーターさん方も参加してくれるかもしれません。競争を促す、というわけではありませんが、応募してくれるみなさんにとって良い刺激になることを見越しての金額にしました。
浜子
もうひとつ、今回賞金を設定した理由として、「このイラストコンテストがきちんとしたものだと感じてもらいたい」という思いがありました。なぜなら、このコンテストの受賞歴が、イラストレーターさんにとって経歴に書けるような価値のあるものにしたいと考えたからです。
さらに、受賞作品はこの企画の画集に収録されることも決まっています。個人で自分の作品を本にすることはあるかもしれませんが、たくさんの人が関わるイラストコンテストの画集に、自分の作品が載るという経験はあまりないのではと思います。応募作品がただSNSで流れて終わるだけではなく、コンテストが終わった後も、その次のステップを見据えたかたちにしたいと考えました。
Profile
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安藝 貴範
グッドスマイルカンパニー代表取締役会長。
大学卒業後、コナミ株式会社などでの勤務を経て、2001年5月に有限会社グッドスマイルカンパニーを設立。
創業以来、クリエイターの夢を応援し、"共創"の精神でフィギュアを中心にそのビジネスをグローバルに発展させてきた。 -
浜子
グッドスマイルカンパニー企画部所属。ねんどろいどやスケールフィギュアの商品企画を担当。
学生の頃、初音ミクがとにかく好きだったことと、美少女フィギュアを作る仕事に興味があったことから新卒でグッドスマイルカンパニーに入社。
現在は、主に「初音ミク」関連商品やねんどろいどどーるを担当中。