
#グッスマイラコン 著名クリエイターと語るコンテストの意義
第2回特別ゲスト ワダアルコ

今回は、『Fate/EXTRA』のキャラクターデザインや『Fate/Grand Order』のサーヴァントデザインをはじめ、ゲーム・書籍・グッズなど多岐にわたるジャンルで活躍しているワダアルコさんをゲストとしてお迎えしました。本コンテストや、これまでの活動の中での経験・気づきについて、対談形式にてお話しいただきました。
対談者
- 安藝貴範(グッドスマイルカンパニー会長/グッスマイラコン審査員)
- 浜子(グッドスマイルカンパニー企画部/グッスマイラコン審査員)
- 特別ゲスト:ワダアルコ(グッスマイラコンゲスト審査員)
(インタビュアー:企画部カホタン)
スマフェス用イラスト制作秘話:等身大のメッセージを込めて
カホタン
本日は初音ミク×グッスマのイラストコンテスト企画について、ワダアルコさんにお話を伺いたいと思います。
まずは、今回「スマイルフェス2025」のために依頼させていただいた、イラストコンテスト企画の“応援イラスト”についてです。制作時のテーマやポイントはどんなところでしょうか?

ワダアルコさんにご制作いただいたグッスマイラコン応援イラスト
ワダ
今回はイラストコンテストの“応援用”ということだったので、自分がもし学生だったらどんな絵を描いてコンテストに応募するかな、みんなで絵を描こうぜ、という気持ちで描いてみました。大人の目線で描くと、なんか難しい絵になっちゃうので、もっと楽しく一緒に頑張れたらいいねという感じですね。
浜子
ちなみに、ご依頼した際は「Challenge!!」をテーマに自由に描いてほしいとお話ししていました。
ワダ
ミクさんにはお菓子作りにチャレンジしてもらいつつ、私が学生だったら、どんな絵を描いてコンテストに応募・チャレンジするかなという絵になりましたね。
カホタン
応募者のみなさんの目線に立って描かれたのですね。
ワダ
陸上部や美術部など、いろんな部活動にチャレンジしているミクさんのラフも描きました。ただ美術部のミクさんはあまりに「絵を描いている人」というメタ的な意味合いが強くなりすぎたのでセルフ没で…!
安藝
確かにそうかもしれないですね。応募者の方に、余計なプレッシャーを与えてしまうかもしれませんし。
浜子
たしかに。今回のイラストコンテストは幅広い層の方に積極的にチャレンジしていただきたいという思いもあるので、メッセージ的にも我々の求めているものとマッチしていました!
ワダ
もちろん、応募作品の中には圧倒的な画力で魅了する絵もありますが、それを見た人が「こんなにすごいのを描かないとダメなのか」と気負ってしまうのは違うなと思ったので。
結果、調理実習でお菓子を作るミクさんに登場してもらいました。料理などしたことがない子供のころの私にとっては調理実習はかなりチャレンジだったので…。ミクさんにとっても多分チャレンジなんじゃないかな…。その上でコンテストは気軽なかわいい絵で送ってOKなんだよ、という意味合いもあります。

応援イラストは『スマイルフェス2025東京』にて掲示いたしました。
集合絵と自己プロデュース:逃げであり、攻めでもあるスタイル
カホタン
ちなみに、普段はどのようなスタイルでイラストを描いているのでしょうか。
ワダ
「大事な絵だぜ!」のときは、人をいっぱい描くことが多いですね。
安藝
たしかにワダさんは、たくさんのキャラクターを描く「集合絵」が多い印象だよね。
ワダ
いっぱいキャラがいると豪華で楽しいじゃないですか。キャラクター単体のアップの絵は大型のポスター等販促物として画面を持たせるのがすごく難しいのですが、集合絵は構成のほうが重要なので、それを踏まえて仕上げれば拡大に耐えられるというのもあります。
浜子
イラストの世界で「数で勝負」の戦略をとる人って、とても少ない印象があります。
ワダ
そうですね、しんどいと思うので(笑)。集合絵は描くのが大変で、まさに「しんどい逃げ」という感じです。
安藝
しんどい逃げ(笑)。
ワダ
アップのほうが難しいので…!でも、描き終えた時の達成感がめちゃめちゃあって気分がいいです。たくさんのキャラクターを私が思うそれぞれの彼らとして描ききることができた時はより愛着も深まります。

カホタン
全てのキャラクターそれぞれに愛を注いでいるんですね。
ワダ
もともと「オールキャラギャグ」的なみんなでワイワイしている漫画やイラストが好きなんですよね。指定があればもちろん応じますが自分で自由に描ける時は、せっかくなら全員ぜひ描きたい、という気持ちが強いんです。
浜子
テーマや作風よりも、とにかく「たくさんのキャラクターを描く」ということにモチベーションを感じるのでしょうか?
ワダ
華やかなのが好きなんですよね。その上でたくさんの人が楽しそうにしているとか、かっこいいポーズしているとか、こいつら仲ええんやなとかそういった関係性が見える絵を描くのが楽しいです。
安藝
それは、見る側も楽しいよね。
ワダ
あとはテーマや作風よりも「作画」にモチベーションがありますね。「どんな絵を描きたいか」と聞かれたら「めっちゃ髪の毛の量が多い陰影のコントラストの高い絵」とか「全部赤いシルキーな絵」とか、作画の印象の話になることが多いです(笑)
イラストレーター、ワダアルコさんってどんな人?
カホタン
ところで、イラストレーターになったきっかけみたいなものはあるのでしょうか?
ワダ
新卒でゲーム会社に就職したのですが、実家の都合で退職し、一度地元に戻りました。いずれ次の就職先を探すつもりでいたのですが、その間にありがたいことにいくつか仕事の依頼を頂きました。その流れのまま気が付けば今ですね(笑)。
カホタン
そうだったのですか!てっきり、幼少期からずっと絵を描くのが好きで、イラストレーターを目指されていたのかと思っていました。
ワダ
もちろん子供のころから絵を描くことは好きでしたけど、ゲームが大好きでゲームを作りたかったんですよね。私の世代だと、絵を仕事にするイコール漫画家かゲーム会社に入るかアニメーターか、という選択肢だったと思います。憧れのゲーム会社に入社できた時は本当に嬉しかったですね。フリーランスとして活動をはじめた時も、食い詰めたらすぐ就職するつもりだったので最初は「プロで食べていく」みたいな覚悟は全然なく、創作同人で絵を描いてちょっとお仕事もらえたりして生活ができるなんて最高だな~とにかく嬉しいからいっぱい描いとこう!みたいなゆるい感じでした。ちょうど世代的にもそういった雰囲気がありました。
安藝
ゲーム会社のデザイナーさんの中から、独立して自分の名前で仕事をする人たちが出てきたのがちょうどそれくらいでしたよね。
ワダ
そういうネームド社員からフリーイラストレーターへの活動のラインができた頃でしたね。私は背景を描いていたのでそういう感じではなかったですが、とにかくゲーム作りに関わってみたくて。
安藝
わかる。実は僕もゲームを作りたかったんですよ。自分でプログラムして作って投稿もしていました。
ワダ
え!それは知らなかったです。
安藝
当時はまだ絵を描く人とゲームを作る人が明確に分かれていなかった時代でしたね。
ワダ
私が業界に入った頃は、すでにかなり細分化されていました。就職した当時はプレイステーション3が出る少し前あたりでした。

イラストレーターという仕事の現実:長く続けるための「人生プラン」
安藝
今は「piapro」をはじめ、色々なプラットフォームがあって、クリエイターが活躍しやすい良い時代ですよね。
ワダ
その人に合ったいろんな手段でごはんが食べられるので、素晴らしいと思います。
カホタン
イラストレーターは、近年子どもたちの憧れの職業ランキングに入るほど人気ですが、長く続けていく上で何か心掛けていることはありますか?
ワダ
正直、イラストレーターは一生やっていくと考えると難しい、「人生のプランを立てにくい」職業だと思います。
安藝
そうなんですか。
ワダ
体力仕事なので量を描けるピークが寿命に対して早めなんですよね。長い目で見たときにある程度安心できる環境を保とうと思うとワーカホリック気味になりますね。描かなくなると腕も落ちるので、日々しっかり絵を描いて、いつまでも必要と思ってもらえる絵描きでいられるような努力がいるな、とこの歳になるとより思います。
浜子
なるほど。一生続けるのは、なかなか大変そうですね。
ワダ
そういう意味でも自己プロデュースが大切だと思います。自己プロデュースというと「どうやって目立つか」を考える人が多いですが、本当は「人生プランをどう立てるか」だと思うんです。
カホタン
人生プランですか?
ワダ
将来やりたいことに応じて立てるプランの方針は人それぞれ違うとは思いますが、想定する人生プランの実現のために自分の技術や指向を磨いて、仕事や作品として収斂していったものが結果的に自己プロデュースや作家イメージと言えるものになるのかなと思います。
例えば、自分がどんなに「おしゃれな作家」になりたいと思っていても、重厚な映画のポスターを中心に描いていれば、「実力派」という印象が定着します。一度ついたイメージを覆すのは難しいので。
安藝
たしかに。我々もイラストレーターの方に何か依頼するときは、そうした実績をみて、それを求めて依頼をしますね。人生プランが重要というのはわかります。

ワダ
若手の時は仕事の幅を広げることでいろんなプランが立てていけると思います。その上で先の例のように、受ける仕事の種類で自分の作家としての印象が決まっていくので、どんな仕事を重ねていくかはとても重要だと思っています。あとは運ですね。
カホタン
ライフプランが自己プロデュースに直結していく、と聞くと、とても大変そうですよね。
ワダ
私自身も10代、20代の頃はそこまで考えてはいなかったので、うっすらそうなんじゃないかなあと思いはじめたのは30代くらいからでしょうか。でも今の時代は絵を描いてごはんを食べることにおいてたくさんの選択肢があるので得意不得意に合わせていろんなプランが立てられるというのが本当に素晴らしいことだと思います。いろんなタイプのイラストレーターとしての可能性が広がりますね。
コンテストの価値:自己プロデュースとフィードバックの機会
カホタン
現在開催中のグッスマイラコン3rd(第7回~9回テーマ)でも、たくさんの素敵なイラストが集まりました。今回のイラストコンテストは、イラストレーターを目指す人にとってどんな意味があると思いますか?
ワダ
コンテストは、SNSの「いいね」とは違う、貴重なフィードバックを得るチャンスだと思います。
安藝
どういうことですか?
ワダ
SNSでの評価は「好き」「可愛い」といった直感的なものですが、コンテストでは、審査員が「その絵をどう使いたいか」という具体的な目的を持って選考しているからですね。
浜子
そうですね。今回でいうと、フィギュアにするために選ぶ、という明確な基準があります。
ワダ
その「プラスの意志」を持ったジャッジを受けることで、自分の「得意技」が客観的に何なのかを知ることができます。それは、自分の力だけでは気づけない、上位版の壁打ちと言えるんじゃないかなと。
そういう意味で、イラストコンテストは本気のフィードバックを受けることのできる貴重な機会になると思っています。
浜子
自分の得意技を明確に知ることで、キャリアプランも立てやすくなりますね。
安藝
得意技は「周囲が思う得意技」と、「自分がやりたい技・自分が思う得意技」が違う、というケースもありますよね。
ワダ
そのギャップに悩んでいる人も沢山いると思います。でも、クライアントは「周囲」が思う得意技を求めて依頼してくださるので、その仕事を続けていくうちに、本人的には得意技ではなくともその人の「印象」になっていくんですよね。
カホタン
早いうちに得意技を認識し、キャリアプランを立てることの重要性がわかりますね。

フィギュア化の舞台裏:コンテストをハックした戦略的な挑戦
カホタン
今回のコンテストでは、KAITOのイラストもフィギュア化の対象になりましたね。ちょうど先日結果発表がありました。
安藝
実はあのイラスト、フィギュアにするにはとても難しいんです。髪の毛の表現や服の構造など、二次元的な表現が多すぎて。

第5回大賞作品・牛乳にキウイ投下さん
ワダ
そうなんですね。それでも、選ばれたのは、やはり絵の力が強烈だったからでしょうか?めっちゃかわいいです!
安藝
そうですね。あの作品の審査会の際は、ぱっとみて目につくよね!とすぐに話題になりました。大変そうですが、作り甲斐のある作品になりそうです。
ただこれはコンテスト結果には関係はないのですが、欲を言えば、応募数がミクと比較してやや少なかったのが、もったいないなと。もっと多くの人に色々なテーマで挑戦してほしいと思っています。
カホタン
テーマの描きやすさだったりするのでしょうか。
ワダ
集中しちゃうんですね~。でもミクさん以外のキャラクターの時は投稿数が少ないのなら、逆に入賞やフィードバックのチャンスは多いってことですね。
安藝
あえて応募数が少ないキャラクターを狙うわけですね。ぜひそうしてほしい。
浜子
実際、そういった方や各回全て応募いただいている方もいますね。
ワダ
戦略的ですね~!
イラストレーターを目指す人へ:最高の自分を日々更新して
カホタン
最後に、これからイラストレーターを目指す方々へメッセージをお願いします。
ワダ
人生プランのことをお話ししましたが、これは長い目で見ての話なので、若い時はあまり先のことを考えすぎず、自分の「一番素敵だな」と思うものを、日々追い続けてください。絵を描くという最高に楽しい時間を大切にしてほしいです。若さが一番の武器です。
安藝
その楽しい時間の中に、地道な努力もあるわけですね。
ワダ
もちろんです。ただ、私はその努力が一番必要な仕上げの作業があまり好きではありません(笑)。
カホタン
え!そうなんですか?
ワダ
いっぱい描くのは好きなんですけど丁寧に仕上げていく作業は飽きるんですよね…。
浜子
それは初めて聞くスタイルかもしれません。
ワダ
なにはなくとも自分がおもう、自分の「最高の状態」を日々更新し続けられることが、一番大切なのではないかと思います。
安藝
最高の状態を更新し続ける。
浜子
素晴らしいお言葉ですね。
ワダ
自分ができているかどうかは別です~(笑)
カホタン
改めて、本日は素敵なお話しを伺わせていただきありがとうございました!

追記
現在開催中の第10回~12回コンテストについて、ワダアルコ様には審査員としてご参加いただけることになりました。
時系列として、本インタビューの際は、審査員参加の打診前となっております。このインタビューの後、ゲスト審査員としての参加を打診させていただき、ご快諾いただきました。
Profile
-
ワダアルコ
イラストレーター。
代表作に『Fate/EXTRA』のキャラクターデザインや『Fate/Grand Order』のサーヴァントデザインなど。
ポップで親しみやすいキャラクター表現から、緻密で美麗な構図まで幅広い作風を持ち、ゲーム・書籍・グッズなど多岐にわたるジャンルで活躍している。
個人としても同人・商業の枠を越えた創作活動を続け、多くのファンから支持を集めている。 -
安藝 貴範
グッドスマイルカンパニー代表取締役会長。
大学卒業後、コナミ株式会社などでの勤務を経て、2001年5月に有限会社グッドスマイルカンパニーを設立。
創業以来、クリエイターの夢を応援し、"共創"の精神でフィギュアを中心にそのビジネスをグローバルに発展させてきた。 -
浜子
グッドスマイルカンパニー企画部所属。ねんどろいどやスケールフィギュアの商品企画を担当。
学生の頃、初音ミクがとにかく好きだったことと、美少女フィギュアを作る仕事に興味があったことから新卒でグッドスマイルカンパニーに入社。
現在は、主に「初音ミク」関連商品やねんどろいどどーるを担当中。