VISUAL & STORY
MOTORED
CYBORG
MOTORED。
合金の心臓を携え、ストリートを駆ける走り屋たち。
“モータード・サイボーグ”とは内燃機関を搭載したサイボーグ形態である。
一般にモータードと言われるそれは換装式義体の一種で、生身の身体は脳核や一部神経のみ残し機械化、小型・換装可能化されたバイタルパートから下を一時的に内燃機関に置き換えるシステムとなっている。
腹部内燃機関から取り出したエンジン出力は超電動モーター等を介して駆動輪・各部関節に伝達されることで優れた高速走行能力や運動性を獲得。これにより公道を一般乗用車並みの速度で走る事ができる。
本来の臓器に当たる部分のほとんどが内燃機関にすげ替わっているため、搭載される生命維持装置は必要最低限まで削られ、連続稼働時間は平均1~2時間程度となっている。
これは生命維持機能に加え、燃料搭載量の限界による要因も大きい。無補給での長時間運用は命に関わる構造のため、多くは稼働時間に優れた日常生活用のバイタルボディと換装できる形で運用される。
モータード義体は「違法に高出力、かつ内燃機関で半車両化された存在」であることもあり一般には流通しておらず、基本的にサイボーグパーツを組み合わせて自作、あるいは闇市場での取引で入手する場合が多い。
2085年現在はモータード使用者の多くが身体の高速・高出化を目的としたアンダーグラウンドなストリートレーサーやパフォーマーであり、トコヨの街のスピードフリークが行き着くサイボーグ・スタイルの一つとして広く知れ渡っている。
トコヨの街は空気中に漂う有害なナノマシンを避けるために住民の90%以上がサイボーグであり、この事も手伝ってモータード使用者人口は世界随一と言われている。
同時にモータード・サイボーグによる事故も後を絶えず、社会的な問題にもなっている。
Tips : APN(大気浸透性ナノマシン」
トコヨの街全域に漂うナノマシン。正式名称は”Atmospheric Permeable Nanomachine”。
もともとは大規模スマートグリッド・プロジェクトの一環として、大気中に散布したナノマシンを介しトコヨ都民の健康状態を検知・監視・制御・改善するシステムだったが、様々な企業がプロジェクトに参入・開発を進めた結果、
無線送電効率の向上や電力管理、空力的な力場の発生など、多種多様な機能がナノマシンに付与されていく事となった。
しかし 付与された機能同士の予期せぬ相互干渉が発生。
ナノマシンが脳細胞に一定以上取り込まれた際、深刻な認識障害を引き起こす症状が発見される。既に人々の生活と密着し 除去が困難な本システムは一瞬にして危険な代物と化してしまった。
一方でトコヨの街における大規模かつ高精度な電力制御・管理は このナノマシンによるものであり、これらを現在取り扱っている企業側にとっては都合の良い機能が多く、健康上の問題を市民のサイボーグ化の推進によって先送りしているのが現状である。
Tips : APNハッキングデバイス
大気浸透性ナノマシンには外部からの制御によって気流をコントロールする能力があり、これによってトコヨの街の外にナノマシンが漏れ出る事を防いでいる。この機能を利用し 走行中に前方から吹いてくる風を的確に避けたり、インテークやスポイラーに風を当てる機能が存在する。
通常なら制御には大規模なアンテナが必要な一方、 小型アンテナでも脳波による直接制御で風防程度の効果は発揮できる事が確認されている。
この機能を利用し、モータードはアンテナを頭部まわりに備えることで、ヘルメットやバイザー抜きでも顔面にかかる風圧を大幅にシャットアウトする事ができる。
なお、トコヨで活動するモータードの多くがヘルメットや風防をあえて着用しない理由については、上記機能の搭載に加え、頭部も含めた全身がサイボーグボディであることと、そして何より「ない方がヒト型として美しいから」というのが文化的に共有認識となっているからである。